第6回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」(最終回)

2018.9.10

第6回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」(最終回)

第6回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

『相互支援的な関係をめざして』

 

著者:齊藤 志野歩(さいとうしのぶ)氏 プロフィール

(株)エヌキューテンゴ CEO

 

 慶応義塾大学総合政策学部卒業後、不動産投資ベンチャーで不動産ファンド運営、住宅開発、商業施設開発等に従事。長男の出産をきっかけに、NPO法人での活動も行いながら、地域とつながりのある暮らしや不動産のあり方を模索。不動産投資会社を退職し、株式会社エヌキューテンゴの代表取締役となる。ひとの暮らしや、その節目の多くに立ち会う不動産業者が、人と物件をマッチングすることだけでなく、人と人、人とまちを結ぶことに、もっと積極的になるべきと考え、他の創業メンバーと共に「まち暮らし不動産」を立ち上げる。

 

 

 

はじめに

 前回は、「地域」や「まち」を「自分」と地続きに捉え、「わたしのこと」から「わたしたちのこと」をつくり、そのうえで、「まちのこと」をつくることを考えました。最終回の今回は、あらためて「わたしたち」の関係性を考えます。私たちがこれからめざすのは、「適切なつながりかた」をベースとした「自由な共生」の社会。その最初の一歩を、どう考えていけばよいのでしょうか。

 

「つながり」の最小単位
 そのために、まず「つながり」の最小単位を考えてみましょう。いま、「わたし」の目の前にいる「あなた」と、どう接していけば、「適切なつながりかた」に一歩近づくことができるのでしょう。そのヒントは、コラムをご覧の皆さまが日々取り組んでいる「支援」という言葉にあるように思います。

 支援とは、「支える」ことに他ならないのですが、たとえば「AさんがBさんを支援する」と言うときに、以下のような図をイメージしますね。しかし、AさんとBさんの間で「支援する側・される側」という関係が長く続くと、それが固定化されてしまいがちです。支援をされる側は、つねに支援を必要とする暮らしになる依存関係になったり、支援する側は、「支援」と「介入」や「管理」を取り違えたりということも、この「関係の固定化」が招くことです。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

 

 この「支援」という言葉からつむぐ関係性を、以下のように捉え直してみてはいかがでしょうか。「AさんがBさんを支援する」とは、「Bさんが別の誰か(Cさん)から支援されやすいようにすること」である、と。すると、どうでしょうか。AさんとBさんの関係は、Cさんや、また別のDさんやEさんを通じて、広がっていくのです。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

 

ひらかれた関係をつくる
 この関係性によって、受援力が高まるのはBさんだけはありません。Aさんも、誰かから支援をうけながら暮らすことができるようになるのです。そのため、この関係性を私たちは相互支援的な関係」と呼んでいます。支援を「する・される(してあげる・してもらう)」という関係が、AさんとBさんの間を行き来するのではなく、他の誰かを介することで、AさんBさんを含めたネットワーク全体が、AさんBさんを支えられるようになります。この状態が「AさんもBさんも自立している」状態ですね。助けが不要になるのが自立ではなく、関係先が多くなるのが自立なのだと思います。ひらかれた、フラットな「おたがいさま」の関係は、相互支援的な関係の重なり合いです。

 「人の集まり」が持つ性質は複雑です。カオス理論の領域といってもよいでしょう。人の集まりにおける「全体」の「一部分」を切り取っても、全体を理解することは困難ですし、性質を制御するのは難しい。しかし、「全体の性質」に対する「初期状態」の影響は、非常に大きいのです。まちづくり・地域づくり・場づくりの類は、「全体の性質」を考えることですが、だからこそ、一人一人の初期状態、すなわち「目の前の人と、どういう関係を築くか」が大きく影響するのです。相互支援的な関係を、個人が一つでも、二つでも結ぶことができれば、そこからつながる「まち」や「地域」、そして「社会」との関係は変わってくると私は信じています。それは個人でも、法人でも、変わりません。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

 

すべては「事実にもとづく対話」から
 このような関係性をつむぐ際に、大切なことがもう一つあります。「コミュニケーションの仕方」です。私たちは、個人同士、法人内、地域の人、役所の人、取引先、さまざまな相手とのコミュニケーションを日々重ねています。小難しく考えなくても、自然とできていることもたくさんあります。しかし、「特定の性質を持った課題」に対応するときには、コミュニケーションを工夫することが必要です。

 コミュニケーションにおいて工夫を図る際に私たちが直面する課題は、大きく2種類に分かれます。

「技術課題」

 問題解決のために、どのような技術やスキルを習得すべきかが明確になっている課題。たとえば、「パソコンが使えない」「車両が足りない」など。

 

「適応課題」

 問題解決のために、自分自身・組織の思考様式や行動を変えることが必要な課題。たとえば、「会社にビジョンがない」「新しいアイディアが生まれない」「旧態依然としている」など。自分自身が課題の一部になっているにもかかわらず、それが認識できない状態。

 

 前者の技術課題は、言ってしまえば「やればできる」類のものです。だからこそ、本来は後者の適応課題であるものを、(ただ単に「取り組みやすい」という理由で)前者の技術課題と誤認して取り組んでしまうことも多いように思います。本質的な解決にならず、場当たり的な処理になってしまいます。

 地域、まちとの関係性を変えていくために取り組むべきことは、おおむね後者の「適応課題」です。それぞれの関係者が、誰か一人の都合や一つの解決策にあわせるのではなく、全関係者がそれぞれの認識を少しずつ変えていくプロセスにこそ、課題解決の成果が内在しているのです。

 この適応課題については、「事実にもとづく対話」が有効です。決して「話せばわかる」ということではなく、「事実にもとづく」ということが大事です。妄想でも希望でもなく、正論やあるべき論でもなく、「いま、私たちの目の前に実際にある事実は何か」について、私たち自身が向き合わなければなりません。この作業はとてもつらい場合もありますが、その「つらい」と感じさせる事柄こそ、本当に取り組むべき私たちの「適応課題」なのです。事実を前に、他者と対話を進めていくと、他者を鏡にして自分の課題に気づきます。その「気づき」が訪れるタイミングは、人によって違いますが、それまで待たなければなりません。ですから、多くの励ましと、自己肯定感を維持する工夫を忘れてはなりません。

 これまでコラムでご紹介した「okatteにしおぎ」や「おたがいさま食堂」、その他のプロジェクトも、多くは企画のスタート時点(「初期状態」と言えます)でこの「事実にもとづく対話」があります。だからこそ、一人の課題解決に終わらず、多くのメンバーが互いの良さを引き出しながらつくる場が「全体として」できていくのです。
 その対話を作っていく技術そのものについては、ここで紹介することは難しいですが、実際は私たちも必死で技術を身につけながら、ご一緒する方からも多くの学びをいただきながら仕事をしています。このコラムも、みなさんのご質問やご指摘に学びながら、進めることができました。ありがとうございました。今後、またどこかで、学びをご一緒できる機会があれば嬉しいです。

 

 

【ご質問①】 

 第5回コラムの質問への回答のなかで、「フラットなお互いさま」という言葉にとても共感しましたが、同時に難しさも感じました。

 私たち社会福祉法人がそういう場をつくろうとすると、「これができます」「これをやります」という押し付け型・提供型になってしまうように思います。また、そのコミュニティにいる方たちも主体的にというところまではなかなかいけず、結局は「提供者(供給者)」と「受容者(需要者)」という構図になってしまうように思います。そのコミュニティにいる方たちがさらにかかわり、共同でやっていくために必要なことを詳しく教えていただけないでしょうか。

 私のことが私たちのことになるように、「社会福祉法人として~」という視点で考えることがこのような構図を生み出しているのかなとも思ったりしています。

【回 答①】

 ありがとうございます。そうですね。第三者を介して相互支援的な関係を築くためには、まず、「相手を尊重する」という基本姿勢が必要なのだろうと思います。それは「勝手にする・放っておく」ということではなく、「気にするけど、コントロールしない」ということかと思います。この基本姿勢にもとづくコミュニケーション方法を身につけること自体は、ほとんど「技術課題」です。

 個人ではできるのに、組織だとできない、としたらそこに横たわるのは「適応課題」です。

 

【ご質問②】 

 前回のコラムでおたがいさま食堂の運営を通して、『「わたしのこと」は、いつのまにか「わたしたちのこと」になっていきました』とあり、とても感動しました。「わたしたちを地域にひらく」ということの意味を深く理解することができたように思います。

 『暮らしや仕事の小さな違和感を、地域に暮らす人と共有しながら、新しいルールやコミュニティをつくっていくことを、支え、応援してあげてください。そのプロセスから、個人と社会をつなぐ信頼関係がうまれます』とありますが、こうした個々人が抱えている違和感や不満のようなものは潜在化していたり、見えているものではないように思います。社会福祉法人という立場からはどのように見つけることができるのか、またはどのように支えることができるのか?斉藤さんの見解を教えてください。

【回 答②】

 ありがとうございます。そうですね。顕在化していませんし、言葉にならないことがほとんどです。しかし、顕在化している答えのわかる課題(技術課題)に取り組み、答えを教えるのが、社会福祉法人の役割でしょうか・・・?

 対話の力を磨きましょう。「言葉にできる」ことは、広報や採用などの発信だけでなく、私たちの事業そのものや、これからの社会づくりに、とても大きな武器なのです。
それに、みなさんの法人の職員さんにも、モヤモヤしている方はいるかもしれませんよ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 バックナンバーは、以下よりご覧いただけます。

第1回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

第2回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

第3回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

第4回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

第5回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

  • Previous

    宮城県青年会 平成30年度第3回情報交換会を開催

  • Next

    島根県青年会 平成30年度第1回研修会を開催