第2回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

2018.1.9

第2回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

第2回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

『そもそも“まち”とは?“まちづくり”とは?』

 

 

著者:齊藤 志野歩(さいとうしのぶ)氏 プロフィール

(株)エヌキューテンゴ CEO

 

 慶応義塾大学総合政策学部卒業後、不動産投資ベンチャーで不動産ファンド運営、住宅開発、商業施設開発等に従事。長男の出産をきっかけに、NPO法人での活動も行いながら、地域とつながりのある暮らしや不動産のあり方を模索。不動産投資会社を退職し、株式会社エヌキューテンゴの代表取締役となる。ひとの暮らしや、その節目の多くに立ち会う不動産業者が、人と物件をマッチングすることだけでなく、人と人、人とまちを結ぶことに、もっと積極的になるべきと考え、他の創業メンバーと共に「まち暮らし不動産」を立ち上げる。

 

 

 

 

 

 

はじめに

 第1回のコラムでは私たち「まち暮らし不動産」がかかわっているプロジェクト「okatteにしおぎ」の概略を紹介しました。第2回では、あらためて「まち」とは何か、「まちづくり」とはどんな活動なのかを捉えなおし、皆さまの事業との関係を考えていきたいと思います。

 

 

楽しいイベントは “まちづくり”なのか?

 さて、「まちづくり」というと何をイメージしますか。

 「◯◯祭り」「◯◯マルシェ」「◯◯食堂」などのイベントや施設、高齢者のみまもり活動や、商店街の歳末福引大会も、地域センターの建替工事も、行政の道路計画や、地域ブランド商品の開発も、「まちづくり」といわれます。むしろ最近は「何をしてもまちづくり」といわれるようにも思えます。皆さまにとっては、まちづくりの定義の多様さや曖昧さが取り組みづらさにつながっているのではないでしょうか。言葉の意味や背景を再考するため、一度以下のように考えてください。

 

「まち」・・・人の集まり

「まちづくり」・・・まちの人なら誰でも(非排除的に、または非競合的に)使える公共財をつくり、維持し、しまうプロセス

 

 

 人が集まるサイズは大小さまざまですが、なにか共通のインフラを共有(共同利用)しながらかかわる間柄のことを「まち」ということができます。まずは、その場所が都会・田舎とか、行政区の境といったことは考慮しないでください。「人が集まること」の可能性そのものを考えていくことから始めましょう。

 では、「公共財」とは何でしょう。以下の表をご覧ください。

 

 

 「財」とは経済学の用語で、物質的・精神的に何らかの効用を持っているものの総称です。「競合性がある」とは、自分が消費すると他人の消費量を減少させること、「排除性がある」とは、対価を支払えば他人を排除できることをいいます。競合性も排除性もない財を純粋公共財、いずれか一方があるものは準公共財といいます。「まちづくり」が対象とするのは、これら「公共財」です。たとえば公共財としての「一般道路」は、誰かが使っていると他の人が使えなくなることはありませんし、お金を払えば独占できるものではありません。(道路が混雑することはありますが、道路を使う権利がなくなることはありません。)

 お気づきのとおり、公共財は一度作ると誰でも同時に使えるため、外出が多くて道路を使う頻度の高い人と、頻度の低い人の間で、経済的な負担の差がありません。逆に言えば「払っているお金以上に、たくさん使う(フリーライドする)」ことができます。また、誰でもいつでも使えるように、常にフルラインナップを用意することになり、個人が私的財でサービスを揃えるよりも無駄が多いように思えます。さらには高い汎用性は個性を失い、「つまらない」ものになりがちで人を惹きつけることができず、かえって公共としての役割を担うほどに稼働しないこととなります。

 これらのジレンマはなくなることはありません。しかし、より納得しやすいプロセスをつくろうと、手をかえ品をかえ取り組んできた結果が、現在の「何をやってもまちづくり」な状況なのでしょう。

 

 

まちづくりの系譜

 「まちの人なら誰でも使える公共財をつくり・維持し・しまうプロセス」である「まちづくり」が多岐にわたるのは、時代背景によって「何をやるか」だけでなく、「考え方や進め方」がアップデートされてきたことにも一因があります。ここでは、私の尊敬する友人でもある京都市まちづくりアドバイザー・同志社大学(社会学)講師の谷亮治氏による論説をもとに、戦後日本における系譜を大まかに振り返ってみましょう。

 

  • 中央集権的国土開発としての「まちづくり ver.1.0」
  • 生活者の権利擁護運動としての「まちづくり ver.2.0」
  • 行政が行う事業に市民が参加する「まちづくり ver.3.0」
  • 協働とパートナーシップによる「まちづくり ver.4.0」
  • コミュニティビジネスによる「まちづくり ver.5.0」

 

 

 「ver.●」というのは、コンピューターのハードウエアやソフトウエアが、従前規格のデメリットを補いながら新たな価値を付加していく(上位互換していく)ことになぞらえています。マイナーなアップデートは「ver.1.0.1」「ver.1.1.1」のように、頭の数字を変えずに行いますが、それらの知見や検証が十分に溜まってくるとメジャーアップデートとして、頭の数字が上がる「新バージョン」が生まれます。小さな工夫や制度変更を多く繰り返して、新たな時代に対応していく様は、まさにまちづくりの考え方と似ています。では、各バージョンを概観していきましょう。

 

■まちづくり ver.1.0〜ver.2.0

戦後の急激な都市構造の変化と人口の増加に対応するため、公共財を国家や自治体が独占的に供給したのがver.1.0のまちづくり。同時に大量に供給するには適合した仕組みでしたが、そのプロセスは市民の手を離れたものでした。むろん、公共財だけでなく私財を供給する産業も盛況であり、交通網整備や重工業などへの重点投資をノンビリやっていられないという事情もあったでしょう。

 しかし、それらは各地で公害や環境変動など歪みも産んでしまいました。ver.2.0は、これらを正そうとする取り組みが中心で、公共と個人の権利が対立的に語られがちでした。

 

■まちづくり ver.3.0

 ver.3.0になると、「公共財をつくる前から住民(市民)の意見を聞く」というプロセスが重視されるようになります。いわゆる「住民参加のまちづくり」というもので、タウンミーティングやパブリックコメントの募集、地域ごとのまちづくり協議会設置などが進みました。しかし、この頃にはすでに暮らしの多様化・流動化し、町内会など地縁組織は加入率が低下、「市民(全員)が参加する」という建前は守ることができなくなっていました。まちの地縁組織に入っていない人たちは、まちづくりについての情報を得ることすら難しくなっていました。

 

■まちづくり ver.4.0

 ver.4.0では町内会のような地縁組織に基づいた公共財づくりではなく、「有志集団」と行政のパートナーシップにより、お互いの知見や強みを学び合い(=協働し)ながら公共財をつくる段階になります。阪神淡路大震災を経てNPO法ができたり、指定管理者制度ができたのもこの頃です。ただし、この「協働」が根づくまでに多くの時間を要しました。行政はNPOに都合よく外注し、有志集団は行政からの助成金をアテにして既得権益化していく集団もなかったわけではありません。他方、有志集団という特質上、「住民のニーズ」よりも、「やる人がやりたいこと」に税が分配されることによって、これまでの地縁組織からは「それでいいの?」いう声が挙がるなど、まちづくり集団間での溝もあった時期といえるかもしれません。

 

■まちづくり ver.5.0

 そして、現行バージョンともいえるver.5.0は、公共財をビジネスの手法により供給する考え方です。「地域ブランドをつくって域外から外貨を稼ぎ、域内のインフラ整備に充てる」「フリーライダーが発生しがちな非排除的・非競合的な財ではなく、対価支払いを約束できるメンバーに限ってクラブ財(準公共財)を供給するシェアビジネス」、PFIやPPI、第1回のコラムでご紹介した「okatteにしおぎ」も、この現行バージョンといえます。

 もちろんver.5.0だけで「公共」が保たれるわけではありません。これまでのver.1.0〜ver.4.0までの手法を残すべきところ、つまり人権や生活基盤や保障分野と未来への共同投資は税の分配によっておこない、その他の部分は可能な限り、多様な資金調達を組み合わせてビジネスとしてやっていくことになるわけです。「ビジネス」というと世知辛く思えますが、「倫理観や公共心をもって、三方よしの商売をする」ことは、まちづくりに限らず重要なことですね。

 

 

みなさんのバージョンは、いくつ?

 さて、ここまでお話ししたのには理由があります。それは、「何をつくるか」「何をやるか」以前に、「まちづくりのバージョン違い」がコミュニケーションや関係づくりを難しくすることがあるからです。たとえば「ver.1.0のつもりの行政」と「ver.3.0を期待する住民」の間では、行政は「良かれと思って全部やってあげてるのに文句を言われる!」となり、住民は「知らないうちに勝手に決めやがって!行政の自己満足だ!」となります。「ver.5.0に取り組みたい行政」と「ver.4.0のままの住民」のあいだでは、行政は「市民活動が自立せず、持続性がない!」と言い、住民は「行政は上から色々いうけれど、まるで金を出さない!」となります。これでは上手くいくはずがありません。

 みなさんがイメージする「まちづくり」の、バージョンはいくつでしょうか?地域のみなさんが考えているバージョンは?お互いに確認していくことがスタートです。

 

 

公共財・クラブ財・私的財の間をスイッチする

 まちづくりの現行バージョンの例として、第1回コラムでご紹介したokatteにしおぎを振り返りながら、次世代バージョン、つまり「まちづくりver.6.0」を想像してみましょう。

 okatteにしおぎはシェアハウスですが、賃貸入居者だけでなく「okatteメンバー」と呼ばれる約100名の会員が、月1,000円〜の会費を持ち寄ることで運営されています。今回のコラムの内容に照らして考えれば、不動産事業による賃貸入居者の個室は「私的財」、大きなキッチンや土間は「クラブ財」です。ただし、okatteのメンバーたちは、ときにokatteの扉を物理的にも心理的にも「どなたでもどうぞ」と大きく開く日があります。その時間に限ってはテンポラリーではありますが、「公共財」としての性質を帯びることになります。つまり、okatteにしおぎは「私的財」に「クラブ財」を組み合わせ、「クラブ財」を時に「公共財」にスイッチすることをめざした事業といえます。結果として、私的財の安定性が事業を支え、クラブ財や公共財としての性質が暮らしの風通しや学びを多くし、私的財をより充実させていくこととなっています。

 公共財を税の配分だけで供給し維持することは、今後の日本では非常に困難です。私的財と公共財が地続きに、相互に良い影響を与えながら共存していくことをめざし、「よく生きることを保障するための公共財+テンポラリーに公共財化される私的財やクラブ財のネットワーク」の組み合わせが、次世代「まちづくりver.6.0」の方向なのかもしれません。

 

 

 

 

 不動産賃貸事業(私的財)からスタートしているokatteにしおぎに対して、このコラムをご覧の皆さまが既に取り組んでいらっしゃる事業からスタートする「まちづくりver.6.0」は、2つの方向性が考えられます。ひとつは「一部をテンポラリーにクラブ財化する」ことです。「楽しくて、お金を払ってでも使いたい」ものに変えていくこと。もちろん、事業の内容によっては難しさもあると思いますが、「公共財が使われる」ためには、大事な観点かと考えます。もうひとつはokatteにしおぎのようなシェアビジネスや、コミュニティビジネスのプレイヤーを「ネットワーク化する役割」を担っていくことです。

 

 

ゆるやかなつながりをつくる。

—「バラバラ」と「組織化」のあいだー

 今回のコラムでは、まちづくりとは「人の集まりにおいて、誰でも使える公共財をつくり、維持し、しまうプロセス」であることをお伝えしました。そのプロセスのあり方を徐々にアップデートしてきた系譜を振り返り、今後は有志団体、コミュニティビジネスなど、多様な観点からかかわる人たちが、私的財・準公共財・公共財をスイッチしながらネットワークを作っていく「まちづくりver.6.0」を展望しました。そのなかで皆さまは、「ネットワークをつくる役割」を担うことができるのではないか、とお伝えしました。

 テンポラリーに出現する公共財ネットワークは、バラバラだとアクセスできません。全体として非排除的・非競合的にアクセス可能な状態になるように、ネットワークをつくっていく必要があります。しかし、多くの多様な主体を「まとめよう」「つながろう」とした結果、再び中央集権的な規範先行で組織化される「まちづくりver.1.0」に戻ってしまうことはないのでしょうか?多様な主体がそれぞれの良さを発揮しながら、同質化せず、ゆるやかに連帯していくには、どのように関係を築けばよいのでしょうか?

 次回は、人が集まり、モノやコトを共有(共同利用)していくときの「関係のあり方」について考えます。

 

 

 

 

 最後に、第1回のあとお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

 

 

【ご質問①】
 「『共(コモン)』や『公(パブリック)』を感じながら暮らせるように」、と考えるに至った経緯やきっかけとなったできごとがあれば、教えてください。

【回 答①】

 きっかけは様々あるのですが、やはり自分自身の子育てでしょうか。まち暮らし不動産の創業前、サラリーマンとして不動産投資会社に勤めていた頃、共働きでの子育てにおいて「孤立する」経験をしたことかもしれません。私は不動産の仕事に携わっているのに、自分の業界がつくった「自分の家」にいることで、かえって孤立するのです。「私的領域」に「社会(共や公)」との接続口がなさすぎるなあと実感したことは大きかったと思います。まち暮らし不動産の創業は、長男が4歳の時です。

 

 

 

【ご質問②】

 「まちづくり」を成功させるために必要な要素について、齊藤さんのお考えをお聞かせください。

【回 答②】

 「自分たちが取り組むことによって生み出される公共財が何なのかを、自分たちを主語にした具体的な言葉で共有する」ことが大事です。これが案外できていないことが多いかなと思います。そこからのプロセスマネジメントについては、今後のコラムでもお答えできればと思います。最も大事なことが、もうひとつありますね?・・・そう。「まちづくりのバージョン合わせ」です!

 

 

 

【ご質問③】
 「okatteにしおぎ」を始めたとき、利用者が増えるまでは、周りに対してどのような働きかけを行ったのか、具体的に教えてください。

【回 答③】

 okatteにしおぎは、サービスを受けるところではないので「利用者」という呼び方はしていません。okatteを一緒につくり・維持していく「メンバー」になりませんか?という呼びかけをしています。具体的には第4回のコラムに譲りますが、ポイントは「場所より先に、場をつくる」ことです。また、「誰か利用してくれる人を募集する」ということではなく、自らが楽しみながら、自らの経験と体験を伝え、「ご一緒にどうですか?」と誘うことです。

 

 

引き続き、気になること、不明なことなど、どしどし質問をお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

 

 

 

 

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第1回コラムは、以下よりご覧いただけます。

 

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