第3回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

2018.3.7

第3回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

第3回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

『“ゆるやかなつながり”ってムズカシイ』

著者:齊藤 志野歩(さいとうしのぶ)氏 プロフィール

(株)エヌキューテンゴ CEO

 

 慶応義塾大学総合政策学部卒業後、不動産投資ベンチャーで不動産ファンド運営、住宅開発、商業施設開発等に従事。長男の出産をきっかけに、NPO法人での活動も行いながら、地域とつながりのある暮らしや不動産のあり方を模索。不動産投資会社を退職し、株式会社エヌキューテンゴの代表取締役となる。ひとの暮らしや、その節目の多くに立ち会う不動産業者が、人と物件をマッチングすることだけでなく、人と人、人とまちを結ぶことに、もっと積極的になるべきと考え、他の創業メンバーと共に「まち暮らし不動産」を立ち上げる。

 

 

 

 

 

はじめに

 前回のコラムでは、「人の集まりにおいて、誰でも使える公共財をつくり、維持し、しまうプロセス」である「まちづくり」について、そのプロセスのあり方を徐々にアップデートしてきた系譜を振り返りました。そして今後は、有志団体、コミュニティビジネスなど、多様な観点からかかわる人たちが、私的財・準公共財・公共財をスイッチしながらネットワークをつくっていくことが大切ではないか、と展望しました。

 今回のコラムでは、皆さんが「ネットワークをつくる役割」を担うべく、「つながりづくり」について考えます。

 

 

「つながり」や「コミュニティ」についての、よくある誤解

 「つながり」や「コミュニティ」という言葉は、「まちづくり」と並んで「いろいろなことにつかえる便利ワード」のようなものになりつつあり、その実が問われること自体が少なくなってきました。だからこそ、誤解や勘違いも多くなっているように思います。たとえば以下のようなものです。

 

誤解1:つながりとコミュニティは「良いもの」である

誤解2:みんな仲良くすることが必要だ

誤解3:つながりづくりには、自分の得意なことを活かすのがよい

 

・・・え?これが誤解なの?と思うかもしれませんね。誤解というよりは、「必ずしも正解ではない」ということだと思いますが、今回はこれらを糸口として考えてみたいと思います。

 

誤解1:つながりとコミュニティは「良いもの」である

 現代の日本では「地域のつながりやコミュニティが希薄である」と言われますが、なぜ希薄になったのでしょうか。遠因となる事象はたくさんあるかと思いますが、結論だけ端的に言えば「他のことよりも相対的な重要度が下がったから、なくなった」のです。もっといえば「嫌がる人がいたから、なくなった」のです。必要なのに、良いものなのに、なくなったわけではないのです。

 少し図解してみましょう。下の図は、私たちの来し方・行く末を、わかりやすく単純化してお話しするときに、まち暮らし不動産がしばしば使うものです。縦軸には「共生」「孤立」、横軸に「不自由」「自由」と取って4つのゾーンに分けて考えます。

 

 

 「これまで」の共生は、しばしば不自由でした。図の左上ですね。コミュニティ(共同体)に対する奉仕や自己犠牲が強く求められ、人の属性や立場によってコミュニティ内でのふるまい(女性はこうあるべき、若年者はこうあるべき、など)が決められていました。「つながり」はあったけれど、「つながりかた」には改良の余地ありだったわけです。もちろん、地域や分野によっては、いまだに、この「共生するけれど、ひとりひとりは不自由な社会」にとどまっていることもあるかもしれません。これでは「つながり」ではなくて「しがらみ」ですね。

 そして、これらを避けて、個人ごとに自由を手にする社会へと移ってきたのが「いま」です。図の右下です。他人と関わらなくても自分のプライベートを充実させることができ、他人から干渉を受けないこと自体が価値でした。しかし、その結果「自由だけれども孤立する社会」になってしまいました。これらは皆さんも、様々な分野で実感なさっていると思います。

 さて、「これから」の話をするときは、図の右上だと思います。孤立から共生へ、しかも「自由な共生」へ。これまであったものを「取り戻す」(左上ゾーンへもどる)のではなく、「新しいつながりかた」「これから必要なコミュニティ」をあらためて具体的につくらなければなりません。「つながり」や「コミュニティ」が一概に「良いものである」ということではありません。左上ではダメなのです。「つながりかた」が大切なのです。

 

誤解2:みんな仲良くすることが必要だ

 自由な共生、とお話ししましたが、左上ゾーンと右上ゾーンの「つながりかた」は何が違うのでしょう。

 大きな違いは、「共同体内の規範をどう捉えるか」です。共同体内で自然にできあがっている規範を守ることで共同体を守り維持することが優先されるのが左上ゾーン。一方、共同体内の規範を吟味する姿勢をもち、ときには新たな規範を創造していくのが右上ゾーンです。前者は遵法に重点のある「道徳」、後者は立法に重点のある「倫理」と言い換えることもできます。「今あるルールに従うことのできる人だけをコミュニティとみなす」という道徳ではなく、「良いつながりかたのために、新しい約束ごとをつくろう」という倫理の視点で考えていく必要があるのです。それは必ずしも「仲が良い」ことではありません。意見の食い違いや立場の相違があるのは当然です。それを少しずつ明らかにしながら、共に学んでいくプロセスこそが大切です。それをしないまま「みんな仲良く」と言っているうちは、左上ゾーンに逆戻りしてしまいます。つながりは所与のものではなく、つくり、選び取るものです。そのプロセスが信頼をつくります。

 「良いつながりかた」に必要なのは、道徳よりも倫理。安心よりも信頼です。そのなかで各々が行う自己決定が尊重されるのが「ゆるやかさ」なのです。

 

誤解3:自分の得意なことを活かすのがよい

 地域のつながりづくり、まちづくりというと、「それぞれの得意なことで地域デビュー!」などと言われることが多いです。このコラムをご覧の皆さんも、社会福祉法人としてできることを活かして地域の役に立ちたいとお考えと思います。得意なことをして、地域の人に感謝されたり褒められたりすることはとても嬉しいことです。

 しかし、「良いつながりかた」を主眼に置く場合には、実は得意なことよりも苦手なことをするほうが良いようです。なぜなら、そのほうが「共に学ぶプロセス」をつくりやすいから。得意なことで誰かの役に立とうと思うと、どうしても「奉仕」してしまいます。またはサービスを提供することに終始して、まちの人をお客さん扱いしてしまいます。逆に、自分たちの「苦手」を差し出すと、まちの人の「得意を引き出す」ことができます。

 このようなことを私たちは「関わりしろ」と呼んでいます。「伸びしろ」や「縫しろ」の「しろ」です。自分たち側の「しろ」を伸ばすだけでは、つながりません。相手の「しろ」を引き出すから、つながることができるのです。

 自分たちにできることは何か?と自問自答することはとても大事なことです。しかし、あえてその悩み自体をまちにひらいて(差し出して)みることで「共に学ぶ」という新しい関係をつくることができます。規範を吟味し信頼を構築していくための、大切な関係性です。

 

 

 

ルール・ロール・ツール

 さて、今回は「よくある誤解」を吟味することを糸口に、「良いつながりかた」のための姿勢を考えてきました。では、具体的な「つながりかたの設計」は、どのように進めたら良いでしょう。私たちがこれらを検討するときには、以下の3つを考えます。

 

どのようなルールをつくるか

お互いがどのような役割(ロール)を担うか

どのようなツールを使うか

 

 これらの設定によって、または何を重視するかによって、つながりかたやコミュニティの質が変わってきます。次回のコラムで、これらのことが不動産事業のなかでどのように活かされているのかを紹介したいと思います。

 

 

 最後に、第2回のあとお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。ありがとうございます。

【ご質問①】
 齊藤さんが、これまでまちと暮らすことの可能性を開拓するなかで、どのようなところに難しさを感じましたか?(制度上の制約や、地域性によるもの 等々)自法人の取り組みの参考にさせていただきたいです!

【回 答①】

 正直なところ、たくさん失敗しましたし、うまくいかないことだらけですが、「難しさ」を考えたことは、ほとんどありません。まずは「何をやるか」よりも「なぜやるのか」という問いを立てることが大事かなと思っています。

 そのうえで、外部要因にかかわらず自分たちで実行と検証が可能なサイズと内容で「実行する」、「修正する」、「もう一度やってみる」というプロセスを繰り返すことでしかありません。よって「これこれが原因」と外部に原因を求めているうちは、ほとんど何もできないように思います。

 ・・・ただ、少し観点がずれますが、最も難しいことのひとつは、「私自身がまわりにひらいていく勇気を持ち続けること」です。とても難しいです。

 

 

【ご質問②】
 「社会福祉法人には、地域でこういった役割を担ってほしい!」といった、
齊藤さんの社会福祉法人に対する課題認識や期待、想いを率直にお聞かせください!

【回 答②】

 「学びの場をつくっていくこと」かと思います。事業分野に関わらず、職員の知識やスキル向上をめざすものだけでなく、地域のひとたちと共に学んでいくことです。いわゆる「福祉サービス」を提供するだけであれば、または「答えを教える」だけであれば、それこそ株式会社でもできることですが、自分たちが良く生きるために「共に悩み、共に学ぶこと」ができるのは、社会福祉法人だからこそと思います。

 日本では「生涯学習」「社会教育」などは、現在のところ文部科学省の管轄です。しかし、1972年のユネスコの報告書『未来の学習』(フォール・レポート)が示したような社会全体が教育に関わる「学習社会」(learning society)には、まだまだ「社会において個人が共生するための学びの場」が足りないのです。

 私自身も、地元自治体の社会教育事業でお仕事をいただいていますし、不動産業という暮らしの場をあずかる業界が、社会教育を担うことも自然であると考えています。最近では、職員研修を地域の人たちと共にするプログラムを、ある社会福祉法人さんからお請けすることになりました。

 みなさんとご一緒にこの分野、取り組んでいけたらいいなと考えています。

 

 

 引き続き、気になること、不明なことなど、どしどし質問をお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

 

 

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第1回・第2回コラムは、以下よりご覧いただけます。

 

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