第4回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

2019.1.11

第4回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第4回 「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

『法人の根っこ、しっかりありますか? ~私たちの源流は何か~

 

著者:坂下 美渉(さかした みさ)氏 プロフィール

特定非営利活動法人あきた結いネット理事長

 社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、相談支援専門員。秋田市地域福祉活動計画策定委員、秋田県児童会館運営委員。

 高齢福祉・司法福祉分野で働いた経験を活かし、平成25年10月にNPO法人設立。「秋田県で困っている人なくそう!!」をスローガンに身寄りのない方や生活困窮者、障がい者の支援に携わっている。長い物に巻かれることを嫌い、『声なき声』と向き合うことに全力を尽くす。今年(平成30年)で40歳。人生の折り返し地点!

 

 

 今回は、法人運営のなかでも『根っこ』となる理念やミッションについてお話ししたいと思います。ここ数年、福祉関係者向けの研修会で講師をする際、「法人の理念を覚えていますか?」という質問をしています。その結果は、きっと皆さんのご想像どおりかもしれませんが、答えられる方は1割程度しかおりません。

 経営側から見ればとても残念な結果なのではないでしょうか。

 

言葉にどんな意味を持たせるか

 ここで、皆さまのお名前についてご質問します。

 きっとご親族やご縁のある方がお名前を考えてくださったのだと思います。私の名前は「美渉」で「みさ」と読みますが、5人兄妹の末っ子なので、最後の子という意味で「美沙」に止まるを付けて「美渉」になったとか。幼い頃は「みほ」と読み間違えられることが多く、自分の名前をあまり好きになれませんでした。

 でも数年前にボランティアの方から、「坂下さんの名前は結いネットの活動にピッタリね!美しく交渉して、人と人の関係を結び付けていく名前だわ」と言われ、美しく交渉できているかはさておき、嬉しい気持ちになったことを覚えています。単純な私はそのときから自分の名前が好きになりました。名前や名称、他者からの言葉は時に大きな意味を持つことがあります。

 人の気持ちがシフトする時、いつもそこには言葉があります。

 魂のこもった言葉や相手を想って伝える言葉には、周囲を巻き込んで何かを変えていく神秘的な力が働くように感じます。誰かの言葉によって、嫌だと思っていたことに対して前向きに取り組めるようになったり、知らないことを知ることで今日からの生き方が変わったり、誰かの想いに触れることで優しい気持ちになれることもあるでしょう。皆さまにも、そのような経験があるのではないでしょうか。

 今回のコラムは言葉を一つのキーワードに進めていきたいと思います。

 

理念とはなにか

 理念とは法人の目的やめざすもの、基本的なあり方を表明したものです。

 何を大切にし、譲ることのできない信念は何なのか。法人内や地域住民、関係機関に対しても自分たちのあり方を伝える言葉として理念は大切です。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

上図は、あきた結いネットが考える理念をトップにしたピラミッドです

 あきた結いネットの理念についてお話します。

 私たちの理念は、

 『私たちはあきらめない、見捨てない、妥協しない、地域福祉のジェネラリストである』です。

 この理念には、社会へ貢献することと、目的を実現するため、全職員が持つべき基本姿勢の要素が含まれています。高齢者、障がい者、児童、生活困窮など縦割りのスペシャリストをめざすのではなく、クライエントを生活者として捉え、ありとあらゆる相談に対応できる人材を法人が育てることを意味しています。

 つまり、ただ単に福祉サービスを提供するだけではなく、地域に必要とされるジェネラリストを育成することがあきた結いネットのめざす法人のあり方という訳です。

 

理念を浸透させるには

 皆さまの法人の理念はどのようなものでしょうか。

 法人設立時から変わらず職員の指針になっていることと思いますが、ここであきた結いネット式、理念を浸透させる方法を紹介します。私たちは理念、ミッション、行動指針が記載されたクレドカードを全職員が携帯し、ミーティングや部門会議の際に唱和します。

職員に配布しているクレドカードです

 クレドとはラテン語で「約束」や「信条」という意味を持ちます。

 クレドの導入の背景には、企業に求められるコンプライアンスの遵守がありますが、全職員に統一された行動や意思決定はビジネスの世界だけではなく非営利組織にも求められます。ただ毎日唱和することで理念は浸透する訳ではなく、その言葉の持つ「意味」を繰り返し何度でも経営者や管理者、リーダーが現場に伝え続ける必要があります

 第1回コラムでも紹介しましたが、あきた結いネットでは法人職員のメーリングリストにおいて、通称「ブラックメール」という理念やミッション、行動指針の意味を問う課題を発信する恐ろしい取り組みをしています!

 理念の意味を理解したうえで、日常業務においてどのように役立てているのかを考えさせるようにしているからこそ、理解から行動へと浸透していくものと考えています。

 つまり、クレドカードを使い法人の理念等を「見える化」しても、その意味を意識的に考えさせる機会を持たなければ効果は得られません。そして、意味を理解した次の段階として「行動」があり、経営者や管理者、リーダーはその行動をしっかり見守り評価する必要があるのです。

 

ミッションについて

 あきた結いネットのミッションは

 『地域にある資源を最大限に活かして、無いものは創る!』です。

 地域にある資源とは行政や福祉施設、企業や地域住民だけではなく法律や各種制度・サービス、町内会やボランティア団体など人が関わるものすべてが含まれています。地域課題を解決するためにさまざまな資源を結び付けてもなお、制度の隙間や狭間にあるニーズが存在する場合には、無いものは創り、対応を検討します。

 そうやって生まれたのが身寄りの無い方の身元保証を行う「トータルライフ支援事業 結いの手(ゆいのて)」です。

 アパート契約時の身元保証にお困りの方で、賃貸保証会社の審査を通過できないケースなどの身元保証をしています。

 

ミッションに求められるもの

 ピーター・ファーディナンド・ドラッカーは「非営利組織の経営」という書籍でミッションについて以下のように述べています。

 第一に問うべきは、機会は何か、ニーズはなにかである。

 第二に問うべきは、それはわれわれ向きの機会かである。われわれならばよい仕事ができるかである。われわれは卓越しているか、われわれの強みに合っているかである。

 第三に問うべきは、心底価値を信じているかである。このことは物についてもサービスについてもいえる。

 つまり、ミッションには第一にニーズ、第二に卓越性、第三にコミットメントが求められるということになります。

 あきた結いネットのミッションにおいては、以下のように解釈できます。

 第一のニーズが制度の狭間に置かれた方たちの訴え。

 第二の卓越性が、福祉専門職としての知識と経験、ネットワークを兼ね備えたNPOであるということ。

 第三のコミットメントは、理念にあるように私たちはあきらめない、見捨てない、妥協しない信念を持ち、ミッション達成を全職員の使命と理解していること。

 皆さまの法人のミッションはどのような内容になっているでしょうか。

 

理念、ミッションをどう活用するか

 あきた結いネットには、ホームレスだけではなく高齢者、障がい者、生活困窮者、触法者など様々な相談があります。その中で感じることは対応する職員の『人としてのあり方』がクライエントの利益を左右する、もしくは損失を招く可能性を秘めているということです。

 職員のものの考え方が根本的にネガティブであった場合、困難な課題を抱えたクライエントの置かれた状況を打開できないものと捉え、あきらめてしまうかもしれません。自らの知識、経験が最も価値のあるものだと考える職員の場合、周囲の意見を受け入れず狭い視野で支援方針を決定するかもしれません。自らの発する言葉がどれだけクライエントの人生に影響を与えるか全く考えない職員だった場合、安直な考えで相手を傷つけるかもしれません。

 このコラムを読んでくださっている皆さまに提案したいのは、法人の理念やミッション、ビジョンや行動指針等をもう一度振り返り、言葉の持つ深い意味まで読み取ってみてはいかがでしょうか。

 福祉や対人援助には答えがないと言いますが、何の指針もないまま人はぶれずに進むことはできません。

 法人のスタンスを理解し、法人の一員として誇りを持って業務を行う。

 法人が大切にしようと思っているものを共に大切にする。

 理念やビジョンには、皆さんが進むべき道が記されているはずです。

 「記されているはず…」です。

 もし、理念やミッションが現状と大きなズレがある場合や、何かしらの違和感を覚えた場合は、見直しも含めて検討が必要かもしれません。そう簡単に変えられるものでは無いかもしれませんが、理念やミッションは法人の命。大切にしていきたいものです。

 第4回コラムもそろそろ終盤ですね。

 第4回目のお題をお伝えしたいと思います。第4回のお題はこちら。

 

 「あなたは主体的に行動していますか」

 主体的とは、どんな状況においても「自分の意志」や「判断」で責任を持って行動する態度や性質のことを指します。あきた結いネットの職員行動指針には、主体的に動くことの必要性が明文化されています。

 主体的に動くためには、意志決定や判断するための根拠を持つ必要があります。根拠を持たず「〇〇さんが言っていたので」や「上司の指示だから」では主体性に欠けると思いますし、無責任ですらあると感じます。任された業務における法的根拠や枠組み、法人のスタンスを心得たうえで自らの業務が社会に果たす役割を理解すること。とても大切だと考えます。

 事業を経営する側の皆さまにおかれましては「何も考えず指示に従ってくれればいい」ではなく、現場職員を一人の福祉専門職として育てあげる視点で関わりを持つと現場のモチベーションはアップすると思います。

 『上司から言われたことを、何も考えずにただやってきた5年』と『上司の指示の根拠を理解し、主体的にやってきた5年』とでは、人間としても福祉専門職としても経験の深さが全く違うものになります。5年という経験の長さは一緒でも、得られる知識、知恵は違うのです。

 このコラムを読んでくださっている皆さまには是非、日々の業務から多くを学び、主体的に動ける人材として活躍していただけると嬉しく思います。

 

 最後に、読者の皆さまよりお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

【ご質問①】

 いつも参考になるお話をありがとうございます。

 「先立つもの(行政の支援や補助金)がないから、声なき声をなきものにする」というお話は、自戒を込めて私たちの改善すべき点ではないかと思いました。

 質問です。

 さまざまな制度の狭間にある方に支援をするときの終着点について、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。

 個々においては、当然ケースバイケースであると思いますが、坂下さんの方針として考えていることがあれば、教えてください。

 

【回 答①】

 ご質問ありがとうございます。

 制度の狭間にある方に支援をするときの終着点ですが、「制度の狭間が、制度の狭間ではなくなること」と考えています。

 制度の狭間に取り残された方たちは、その困りごとを個人や周囲の人間だけで抱えてしまうことが多くあります。それらの困りごとを個人のものとして捉えるのではなく、地域における課題として他人事から我が事にシフトしていくことが求められていると感じています。

 私たちの取り組みに行政の支援や補助がなくても、諦めず支援の実績を重ねていくこと。その実績がいつか制度の狭間に取り残された方たちを支える仕組みに繋がっていくと私は信じています。

 

【ご質問②】

 第3回コラムの内容について、質問です。

 感情の波で他者に迷惑をかけることがないよう、坂下さんが自分自身を理解するために普段から気をつけていること、また会話において心がけていることがあれば、教えてください。

 

【回 答②】

質問ありがとうございます。

 感情の波で他者に迷惑をかけないよう、私が気を付けていることは「価値観の物差しを長くしておく」ことです。

 罪を犯した方の支援をしていると独特な価値観、考えに遭遇します。「そんな考えでいるから罪を犯してしまうんだ」とクライエントの価値観をバッサリ切ってしまう関わり方は福祉的支援としていかがでしょうか。

 罪は許されるものでは決してありませんが、罪を犯してしまうクライエントの心理のどこに介入すれば現状を変えていけるのか理解できなくてはいけません。そのためには、クライエントの価値観を受け入れられる私である必要があります。

 そして、クライエントに対し熱心に関わる人ほど「自分がこんなに頑張っているのだから、クライエントにはその気持ちに応えて欲しい」と考えがちです。

 しかしこれは間違えていると私は思います。

 気持ちに応える、応えないはクライエントが決めることですし、そもそも見返りを求める支援とは何だろう?と疑問を持ちます。こうあるべきだ、こうあって欲しいという価値観に捉われてしまうと、感情の波にのみ込まれてしまう可能性が高くなります。

 また、職員間においても他者の価値観を受け入れられない人ほど不平不満を口にします。自らの考えが正しいという万能感に基づく発言は、対人トラブルを招くリスクを抱えていますので、感情の波をコントロールするためにも他人の価値観を受け入れる努力が求められるのではないでしょうか。

 会話において心がけていることは、どんなに深刻な話をする場合であっても、相手が笑顔になれる瞬間をつくることです。

 笑顔は嬉しいとき、楽しいときだけではなく、相手に受け入れてもらえたと実感したときや安堵したときにも自然と出るものです。意識することで、同じ内容を伝える会話であってもゴールが違ったものになります。

 

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(事務局より)研修会のご案内

 坂下氏が理事長を務める特定非営利活動法人あきた結いネットは、「親亡きあと問題を考えよう」をテーマに、下記のとおり研修会を開催します。

 ぜひご参加ください!

 

○ 目 的

 障がいのある方とその家族が抱える課題として『親亡きあと』があります。『親亡きあと』という言葉の注目度が高まる中、当事者や家族がどのような想いでいるのかを知り、考えることの必要性も高まっています。現在、秋田で過ごす当事者やご家族の率直な想いを知るためのアンケートを平成30年9月に実施し、その結果を共有することで、私たちに出来ることを共に学び、必要な方と出逢う機会としてセミナーを実施します。

○ 開催日時

 平成31年2月22日(金) 13:30~17:00

 詳しい内容や申し込み方法等については、下記よりご確認ください。

【ご案内】親亡きあと問題を考えよう

 

また、本コラムを読んで坂下さまに聞きたいことなど、事務局までどしどしお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

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