第4回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

2018.5.8

第4回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

第4回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

『不動産事業としての勘所』

著者:齊藤 志野歩(さいとうしのぶ)氏 プロフィール

(株)エヌキューテンゴ CEO

 

 慶応義塾大学総合政策学部卒業後、不動産投資ベンチャーで不動産ファンド運営、住宅開発、商業施設開発等に従事。長男の出産をきっかけに、NPO法人での活動も行いながら、地域とつながりのある暮らしや不動産のあり方を模索。不動産投資会社を退職し、株式会社エヌキューテンゴの代表取締役となる。ひとの暮らしや、その節目の多くに立ち会う不動産業者が、人と物件をマッチングすることだけでなく、人と人、人とまちを結ぶことに、もっと積極的になるべきと考え、他の創業メンバーと共に「まち暮らし不動産」を立ち上げる。

 

 

 

はじめに

 前回のコラムでは、「“つながり”や“コミュニティ”についての、よくある誤解」を手掛かりにして、つながりづくりを以下のように捉え直しました。

・大切なのは「つながり」そのものではなく「つながりかた」であること

・意見や立場の違う人々が集うためには、各々が行う自己決定を尊重し、倫理や信頼を大事にすること

・自分の苦手なことを差し出すなど、「関わりしろ」をつくること

・共に学ぶ場を大切にすること

 今回のコラムでは、第1回コラムで紹介した「okatteにしおぎ」を再度取りあげながら、「地域づくり・まちづくり」と「事業」を併存させていくことを考えます。

 

 

場づくり・場所づくり

 今回はまず、「場」という言葉を考えます。みなさんがよく耳にする言葉だと「居場所」が近いかもしれません。が、これも少し違います。さらには「場所」と「場」は明確に違います。

場所 ≠ 場 ≒ 居場所

 

 さて、では「場」とはなんでしょう。「場所」との違いを明確にするために定義しておくと、以下のようになります。

場所・・・物理的に特定できる点、施設、スペース、ファシリティ場・・・主に人と人のつながりかたが生み出す雰囲気・可能性

 

 「場所」については、具体的に見えるものなので、わかりやすいですね。たとえば「駅前広場」や「公民館」「道路」、皆さんの「施設」もそうです。また、そのなかにある特定のスペース、たとえば「食事スペース」や「ホール」といったものも「場所」です。

 一方で、「場」は、まさに前回のコラムでお話しした「つながりかた」を起点とするものです。人と人、またはそれに限らず、人と物や人と場所などの「関係性」がもたらす雰囲気や、そこから感じられる可能性のことを「場」と言います。私たちが安心できたり、前向きな気持ちが生まれたり、チャレンジできたりするのは、「個人のちから」と「場のちから」の合わせ技によるものです。

 たとえば、ある児童館を考えてみましょう。それ自体は「場所」です。そして同じ児童館に通うAくんとBくんがいるとします。

Aくんは、

 ・困った時に相談できる大人がいる

 ・話しやすい友達がいる

 ・遊び場は快適で遊びやすいと感じている

一方、Bくんは、

 ・大人とは話しにくいなと感じている

 ・いつも同じ人同士が固まっていて、友達の輪に入りにくい

 ・遊具の使い方に理不尽なルールがあって納得がいかない・・・

 児童館という「場所」に可能性を感じ、明日も行きたいな、何ができるかなと期待をもつのは、Aくんの方だと思います。Bくんはそうではなさそうです。

 しかし、それは、たとえば「Bくんが引っ込み思案だから」「理屈っぽいから」などという、Bくんだけによるのではなく、Bくんと周囲の「関係性」を、うまくチューニングすることが大切です。関わる人たち(Bくん本人も含みます)がつくっている(概ね、無意識につくってしまっている)関係性を、意識的に変えていく必要があるかも知れません。それは、Bくんが自分自身で変えていく力をつけることが最も大切です。しかし、まわりの人の手助けが必要なこともあります。

 「場をつくる」とは、「よいつながりかた」をつくることです。風通しがよく、相互に信頼を築けるようにしていくこと、さらに言えば、お互いのルールやマナー、フェアなコミュニケーションや、話し合いの進め方、ものの決め方・決まり方を納得のいくものにしていくことです。そのような土台があって、私たちは“ここに居ていいんだ”という感情を持つことができます。そう感じる場所が「居場所」なのです。「場」は相互に作られていくのに対して、「居場所」は個人がそれぞれ感じるものです。

 

 

okatteにしおぎの場合

 さて、第1回コラムにokatteにしおぎの様子を写真で紹介しました。これらのイベントや掃除や買出しといった出来事は、okatteメンバーがほとんど自主的に、それぞれが持っている力を少しずつ発揮することで立ちあがっています。もちろん全員がもれなく積極的にリーダーシップを取っているわけでもないですが、一方で、誰か固定されたリーダーがいるわけではありません。時と場合によって、リーダーシップが流動的に発生し、それぞれができることを担うことで、成り立っています。

 もちろん、「不動産事業としてのokatteにしおぎ」のすべてが、そのような自主性だけで成り立っているわけではありません。

①「場所」として成り立たせる経済

②「場」として成り立たせる経済

の両方を持つことで、事業全体のリスクを減らしていると言えます。

 では、okatteにしおぎの「場所づくり」と「場づくり」をみてみましょう。

 

okatteにしおぎにおける「場所」づくり

 場所をつくり、維持していくには、「どのような収支計画をするか」という、一般的な不動産事業の収支計画と何ら変わりありません。シェアハウスとしてのokatteにしおぎは、十分合格点の収支となっています。

 ただし、「お金の流れ」で特徴的なのは、okatteメンバーの会費(月1,000円〜)や予約利用料の収入から一定の金額を、okatteメンバーが自ら使える予算としてプール(okatteメンバー会計)していること。「okatteメンバー会計」と呼ばれ、消耗品や常備食材や調味料などをメンバー自らが買い揃えています。

 

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

 

okatteにしおぎにおける「場」づくり

 okatteメンバーはそれぞれ、メンバーになる前から知り合いだったわけではありません。たまたまokatteで出会って「お互いの約束事を作りながら、okatteを使いあっている間柄」というだけで、言ってしまえば相変わらず赤の他人です。それでも、その「間柄」をうまく作り、安心して関わることができてこそ、okatteにいることを楽しむことができますし、さまざまなイベント(コンテンツ)がokatteのメンバーによって作られていくのです。それらがokatteという場所の価値を高め、場所づくりの経済に還元されていきます。また、場所づくりの経済が成り立つからこそ、メンバーは自分たちの場を継続することができることを、メンバーは知っています。

 なお、私自身は「コーディネーター」という立場で、okatteに関わっています。メンバーをお客さん扱いするのではなく、管理するのでもなく、「支援」するのが仕事です。もちろん事務手続き上の管理はありますが、okatteでの暮らしや出来事について、メンバーを「引っ張る」ことも「巻き込む」ことも「仕掛ける」ことも、ほとんどありません。

 では、コーディネーターは何をしているのでしょう。

 okatteのメンバーは、年齢は高校生から70代ぐらい。男性も女性も、近所に住む方から電車で来る方まで、子連れもいれば、単身者もいます。外形的な属性のバラツキから言えば、いわゆる「多世代交流型」。しかし、「バラツキがあること(ごちゃまぜになっていること)」だけでは「多様な人が共生する」ことと、イコールになるとは限りませんね。そこに「場」が生まれるには、いくつかの工夫が必要です。

 

 

ルール・ロール・ツール

 「場づくり」とは、「よいつながりかたをつくること」でした。そのためには、お互いの関係が納得できるものであり、お互いを信頼でき、安心して関わることができると良いですね。具体的に工夫することを、私たちは「ルール」「ロール」「ツール」に分けて考えています。

 

  • ルール(約束)

 お互いの間のルールは、関係性に大きく影響します。また、その「ルール自体を、どう扱うか」という点も、場の性質を大きく左右します。

 okatteにしおぎにも、設備(キッチンなど)の利用方法についての手引き(ルール)があります。ただ、「ルールは人が心地よく過ごすためにある」という原則のもとに、人が変わればルールが変わること、ルールの書き方を「〜は禁止」という書き方よりも「〜すると〜できる」のような肯定的な文言にすること、ルールをむやみに増やしすぎないこと、など「ルールのルール」のようなものがあります。

  • ロール(役割・会議体)

 ロールとは、個人が担う役割の範囲や、会議体の設計についてです。どんな顔ぶれで、どんなことを、どのように決めるのかについて一定の納得感がなければ、「他人ごと」に感じられたり、安心して発言や提案ができません。もちろん、会議自体の進行(ファシリテーション)の仕方も大切です。また、「役割・立場・肩書き」と「個人のパーソナリティ」を癒着させないように、気を配る必要もあります。

okatteにしおぎでは、メンバーの定例会(月1回)を開いています。

  • ツール(道具・手段)

 多様な人が関わる場合には、多様なコミュニケーション手段が必要です。それは、メールなのか電話なのか、という点だけでなく、コミュニケーションの頻度や速度や直接性の点でも、どんなツールを使えば「多様さ」に対応できるか考えてみると良いと思います。

 

 

人の集まりに働く2つの力 — 遠心力と磁力

 さて、コーディネーターは、ルール・ロール・ツールに気を配りながら全体性を捉えるバランス感覚が必要な役割であることは言うまでもないですが、「人の集まり」においては、大きな2つの力が働いていることを理解するだけで、バランスを取りやすくなります。2つの力は概念的に、「遠心力」と「磁力」と捉えていくといいかと思います。

 人の集まりは、常に「遠心力」が働きます。きっかけや目的を作り続けなければ、気持ちが離れていきますし、集まる機会も減っていきます。

 「磁力」は、個人と個人が近づく力です。他者に依存し、甘えてしまうことを意味しています。この力は個人ごとに強さが異なりますが、ことに「同じコミュニティにいる」という前提があると、他者を自分と一体化して捉えてしまい、距離を保てなくなりがちです。

 では、まちづくりや場づくりに取り組むとき、この2つの力にどう対処したらよいでしょう。遠心力には強い求心力を、磁力には、もっと強い磁力を作るのでしょうか。実は、この遠心力を打ち消し、磁力を弱めるのが「場づくり」なのです

 ひとりひとりが「ここ居たいと思うちから」をつくり、個人同士の違いを認めながら納得や信頼を作り、それぞれの意思決定を尊重することで、磁力を適度に弱めていくのです。

(ここでいう「磁力」だけに頼ったつながりが、第3回のコラムでお話しした「“これまで”のつながり」なのだということに、お気づきになったでしょうか?)

 

 

個々の法人のなかで「場づくり」はできているか

 さて、今回のコラムではokatteにしおぎの「場所づくり」「場づくり」についてお話ししました。お気づきのとおり、その2つは別々に成り立っているのではなく、相互に影響しています。皆さんが取り組んでいる事業のなかにも、場所を場所として成立させる福祉事業の土台に法人としての「場のちから」があるかと思います。職員の皆さんがいきいきと働き、地域の一員として生きる(活きる)ことが、地続きに「地域づくり・まちづくり」につながっているのです。

 次回のコラムでは、「地域」や「まち」を「自分」と地続きに捉えていくための方法を考えます。

 

 最後に、第3回の後にお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

 

【ご質問①】
 第3回コラムのなかにある「共生⇔孤立 自由⇔不自由」の図はとても勉強になりました。そしていま、いろいろなところで叫ばれているコミュニティづくり・まちづくりが、少なからず「あの頃はよかった」というノスタルジックなコミュニティづくりを指向している方も多くいるなかで、目から鱗でした。
 自由で共生というコミュニティづくり・まちづくりについて、今後のコラムが楽しみです。
 さて、質問ですが、つながりをうみだすとき、たとえば趣味(車好き・釣り好き)や嗜好(ケーキ好き・フレンチ好き)のような共通項を持つことがコミュニティやつながりの基盤となることも多いですが、okatteにはそのようなものがあまりないように思います。okatteに人が集まる理由・動機とはどのようなものでしょうか。教えていただければと思います。

 

【回 答①】

 ありがとうございます。そうですね。両者が外見上は、見分けがつかないのも厄介ですね。まだまだノスタルジックな方便も必要だとは思いますが、徐々に上位互換していければ良いのではないかなと思います。

 さて、もちろんokatteでも「手芸部」や「園芸部」ができたり、「ジビエの会」があったり、「コーヒーを極める」とか「米づくりやってみよう」などの活動があり、それが「okatteメンバーになる当初の目的やきっかけ」だった人もいます。が、大半はそのような具体的な共通項を持っていなくても、メンバーになっています。理由は「なんだか楽しそうだから」「居心地良さそうだから」「なにか良いことありそうだから」だそうです。okatteメンバーになる方には、最初に説明会に参加していただいていますが、その説明会が実質的には「okatteの可能性を感じるワークショップ」のような役割を担っています。この説明会自体も「場づくり」なのです。

 

 

【ご質問②】 
 自治体とともに社会教育事業関係にも力をいれているとのことですが、その事業を推進するにあたって大事にされている視点や、その事業を通しての気づき等、教えていただきたいです。

 

【回 答②】

 ありがとうございます。

 大事に心に留めているのは、「学びの場をつくることに酔わない」というようなことでしょうか。うっかりと無意識にパターナルな押し付けになってしまうことも気をつけたいと思っています。学んだほうが良く生きられる時もありますが、そうでなくても生きられるのですし、「生きる」ことの幅はとても広いのです。

 この事業を通じた私の気づきですが、最近あらためて思うことを2つ。1つは、どうやら「学び」や「気づき」による一番大きな効果は、「怒りの感情」との付き合い方が上手くなることのようです。悲しい、寂しい、嫌だ、などマイナスの感情は様々ありますが、「学び」の体験をしていると、それが「怒り」に昇華しにくい。逆に「怒り」や「怨み」を手放すプロセスも「学び」そのものなのですね。もう1つは、前段のこととも関係しますが、学びを重視した結果、生きることが「スキル」に偏重することに対する違和感です。他人と上手くやっていくスキルがあったほうが良いのは良いのですが、スキルは「すぐに手渡せる」ものではありません。身につけるまで地域の人と暮らせないというのは本末転倒ですし、身につく前に孤立して戻れなくなってしまう。ですので、他人と上手くやっていくための「ツール」を考案?開発?することに興味を持っています。「健常者(という言い方もおかしいのですが)のための治具」のようなものかもしれません。まだまだ私も学びたいことが多いです。

 

 

 引き続き、気になること、不明なことなど、どしどし質問をお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

 

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第1回・第2回・第3回コラムは、以下よりご覧いただけます。

第1回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

第2回 「地域づくり まちづくり -私たちを地域にひらく-」

第3回 「地域づくり まちづくり-私たちを地域にひらく-」

 

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