第5回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

2019.2.4

第5回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第5回 「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

「親亡きあと」とどう向き合うか

 

著者:坂下 美渉(さかした みさ)氏 プロフィール

特定非営利活動法人あきた結いネット理事長

 社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、相談支援専門員。秋田市地域福祉活動計画策定委員、秋田県児童会館運営委員。

 高齢福祉・司法福祉分野で働いた経験を活かし、平成25年10月にNPO法人設立。「秋田県で困っている人なくそう!!」をスローガンに身寄りのない方や生活困窮者、障がい者の支援に携わっている。長い物に巻かれることを嫌い、『声なき声』と向き合うことに全力を尽くす。今年(平成30年)で40歳。人生の折り返し地 点!

 

 

 皆さまは「親亡きあと」という言葉をご存知でしょうか。

 あきた結いネットでは、平成27年4月から「トータルライフ支援事業結いの手」という名称で、身寄りのない方の身元保証事業を展開しています。身元保証を通じて、クライエントの想いに触れる機会を得たことで、私たちは「親亡きあと」を制度の狭間として捉え、さまざまな取組をスタートするきっかけとしました。

 「親亡きあと」という制度の狭間について、私たちは独自に以下のような定義付けをしています。

 『親亡きあととは、何らかの形で支援している家族や親戚が、その役割を果たせなくなった状態』

 

親亡きあととの出会い

 身元保証事業はご本人やご家族、関係機関や行政などから相談を受けます。

 「いま、住む場所がない」「アパートの保証人がいない」といった賃貸借契約における身元保証に関する相談や、「施設を利用したいけれど」「親族が高齢で保証人になれない」など高齢者、障がい者等の施設入所に関する相談です。

(※全国的な身元保証に関するデータは以下をご参照ください。)

病院・施設等における身元保証等に関する実態調査 報告書(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート)

 

 年間、何十件も相談をいただくなかで、私が最も心に残っているクライエントがいます。それは二十年近く自宅にひきこもっている一人娘を心配し、ご自身は末期がんで入院が必要という状況のなか、誰かに娘を託さなくてはと相談に来られたお母様です。

 「自宅に娘が住んでいることを近所の人は知らないのです」

 数年前にご主人は他界し、お母様は一人で我が子の問題を抱えていました。相談を受けてから3か月後、お母様はお亡くなりになりました。

 

誰かに相談すること

 現在、娘さんは私たちとの関わりのなかで毎日の生活を維持し、少しずつですが社会とのつながりを持ちはじめています。このご家族との出会いにより、各種福祉サービスや制度につながらず、ご家族がそのすべてを受け止め悩んでいること。

 相談したい気持ちはあるけれど1歩踏み出せないでいること。

 子どものことは親の責任と考え、生きている間は自分でなんとかしたいとお考えの方がいることを知りました。

 「私たちが作りあげた身元保証事業は本当に困っている方たちの力になっているのか…」

 制度や事業があっても相談できない現状があります。それは申請主義の課題点として挙げられ、そしてアウトリーチの必要性につながってきたのだけれど、そもそも私たちはこの事業を作りあげるとき、当事者の気持ちをどのくらい理解できていたのでしょう。

 あまりにも有名な障害者権利条約の合言葉でもある『Nothing About Us Without Us』(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)を思い出しました。

 「地域に必要な取組をしている」という自負が、本当に見つめなければいけないものを見えなくさせ、結果として困っている人たちの助けにつながっていなかったのではないか…。

 

私たちにできること

 今年度、私たちは親亡きあとを考えるプロジェクトを立ちあげ、現場職員が中心となって3年計画の事業をスタートしました。私たちの作りあげた身元保証事業に足りなかったもの。

 それは、当事者または当事者家族の思いです。

 今年度は、親亡きあとに関わる方たちへアンケート調査を実施しました。当事者家族の皆さまより、たくさんの回答をいただいています。平成31年2月22日(金)には、アンケート結果の公表と、今後2年間の取組へつなげるためのセミナーを開催します。

(※セミナーの詳細は以下をご参照ください。)

『学び逢いプロジェクト 「親亡きあと問題」を考えよう』セミナー

 

 私たちにできることは、地域課題を見つけ、解決することだけではありません。

 いまある仕組み、制度などのさまざまな枠組が本当に自分たちの暮らす地域の皆さんを幸せにしているのか。自分たちの続けてきた取組が、いまも変わらず地域の力になっているのか。

 「創りあげたものを壊す勇気」を持ちながら、違和感を覚えはじめた部分にはメスを入れ、形を変えながら地域に寄り添うことが求められています。

 

8050問題とは

 8050問題とは、80歳代の親と50歳代の子どもの組み合わせによる生活問題を総称して使われている言葉です。

 背景にあるのは1980年代~90年代に若者の問題として「ひきこもり」という言葉が社会に出はじめるようになりましたが、そこから数十年が経過し、10~20代の子が40~50代に、40~50代だった親が70~80代になったいま、生活が立ち行かなくなるなどの課題を抱えているケースがあります。

 ひきこもりとは、「さまざまな要因の結果として、社会参加(義務教育を含む就学、非常勤職員を含む就労、家庭外での交遊)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしてもよい)を示す現象概念」(ひきこもりの評価・支援に関するガイドラインより)と定義されています。

 内閣府の「若者の生活に関する調査報告書(平成28年9月)によると、広義のひきこもり状態にある者は54.1万人、狭義のひきこもり状態にある者は17.6万人となっています。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

65歳以上の者のいる世帯の世帯構造の年次推移(「平成29年 国民生活基礎調査の概況」から作成)

 そしてこの国民生活基礎調査から、三世代世帯の減少とともに単独世帯、夫婦のみ世帯、親と未婚の子のみの世帯が少しずつ増加していることが分かります。この流れがこのまま続くと考えた場合、皆さまの関わる事業においても身寄りのない方の相談や保証人が高齢であったり亡くなられたりするケース、キーパーソンになるはずの息子さんがひきこもっているということも想定する必要が求められるのではないでしょうか。

 あきた結いネットでは、先に紹介した親亡きあとを考えるプロジェクトにおいて、8050問題や7040問題にも向き合っていきたいと考えています。現在、相談件数がそう多くなくても1件の相談の背景には100件の困りごとを抱えている人たちが存在すると考え、当事者の皆さまや行政、各種団体と連携しながら1歩ずつ進めていきたいと考えています。

 ぜひ、皆さまの法人、事業所においても5年後、10年後を見据えた事業展開とソーシャルアクションも視野に入れた取り組みを進めていただけたらと思います。

 

 さて第5回コラムもそろそろ終盤です。

 今回のお題をお伝えしたいと思います。第5回のお題はこちら。

 「あなたは自分を変える勇気がありますか」

 松下幸之助の名言に次のようなものがあります。

 「何事にもゆきづまれば、まず、自分のものの見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執して、他の見方のあることを忘れがちである」

 コラムの中盤で「創りあげたものを壊す勇気」とお話しましたが、それは自分自身を変えていくことと同じくらいとても難しいことです。私の場合、性格上「なんだかおかしいな」という状況を継続していくことのほうが難しいので、そのプロジェクトに相当な時間を費やしていたとしても、あっさりと壊す、もしくは創り直す場合があります。

 それは周囲から見たら恐ろしいことかもしれませんが、論点をおさえて進めていくためには必要な能力なのではないでしょうか。

 そして、私自身の性格についても、求められる役割によってあるべき姿は変わってきますので、不足を補い、過剰をそぎ落とす毎日です。怒りや憤りの感情が生まれたときも、その経験に感謝し、その経験に意味があると理解します。

 理不尽な出来事にも、どのような意味を持たせるのか。

 すべてが学びの機会だと捉えられたら、自分を変えていくこと、組織を変えていくことはそんなに難しいことではないのかもしれません。

 

 最後に、読者の皆さまよりお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

【ご質問】

 無いものは創り出すという考え方、とても共感できます。

 「制度にないからできない」というのは言い訳でしかないと思っています。また、「できない」のではなく「やらない」だけだとも思っています。最近、社会福祉を突き詰めていくと、行き着くところは社会福祉法人でも、NPOでも同じなのではないかと思うようになりました。

 その方法論や実践の仕方や内容等々はいろいろあり、その実践論を形にして示すことが”理念”なのではないかと思うようになりましたが、このような考え方は極端でしょうか?

 

【回 答】

 ご質問ありがとうございます。

 「無いものは創る」の考えに共感してくださり嬉しく思います。ご質問にありました『実践論を形にして示す』ことが理念であることが、極端な考えかどうかですが、私は極端であるとは思いません。

 私たちには、理念やミッションを体現していくことが求められています。

 「体現」とは「理念などの形のない精神的な事柄を具体的な姿に表す」という意味があります。つまり、私たちは法人内や地域に対して理念のめざすものを具体的な行動で示すことが責務でもあると私は考えています。

 理念を通して法人のめざす未来を知り、その一員として共に歩める幸せを感じることができたらとても幸せなことではないでしょうか。

 この法人の職員であることに誇りを持ち、理念が示す方向を実現するために日常の業務がある。自分自身が法人に対して貢献できていると実感できるような環境。現場職員にも、法人や社会に貢献しているという実感は欠かせないと思います。

 このコラムを読んでくださっている皆さまのなかには、マネジメント業務に携わっている方が多くいらっしゃると思います。

 現場に求められる技術を習得させることも重要ですが、自分たちの法人を誇りに思って働いてくれる職員を育てることもとても大切な役割なのではないでしょうか。

 

 

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 本コラムを読んで坂下さまに聞きたいことなど、事務局までどしどしお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

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