第2回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

2018.11.1

第2回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第2回 「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

NPOのさすらい旅 ~存在意義とは何なのか~

 

著者:坂下 美渉(さかした みさ)氏 プロフィール

特定非営利活動法人あきた結いネット理事長

 社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、相談支援専門員。秋田市地域福祉活動計画策定委員、秋田県児童会館運営委員。

  高齢福祉・司法福祉分野で働いた経験を活かし、平成25年10月にNPO法人設立。「秋田県で困っている人なくそう!!」をスローガンに身寄りのない方や生活困窮者、障がい者の支援に携わっている。長い物に巻かれることを嫌い、『声なき声』と向き合うことに全力を尽くす。今年(平成30年)で40歳。人生の折り返し地点!

 

 

 

はじめに

 今回は、NPO法人についてお話ししたいと思います。

 現在認証されているNPO法人は、全国で51,770法人(平成30年8月末現在)です。数としては社会福祉法人の2倍以上になるでしょうか。平成10年施行の「特定非営利活動促進法(NPO法)」により認証された民間非営利団体がNPO法人です。非営利団体、つまり、「営利を目的としない組織」ということになります。この「営利を目的としない組織」の考え方ですが、利益を役員等で分配しないという意味であり、収益を上げてはいけない、活動の対価をもらってはいけないというものではありません。

 どんどん収益を上げて地域課題を解決する事業を展開することが、今後のNPO法人には求められていると私は感じています。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

(出典:内閣府NPOホームページ)

 

事業型NPOとは

 NPO法人はボランティア、無償というイメージが根強くありますが、自ら事業展開し収益を獲得する「事業型NPO」であれば事業の幅が格段に広がります。ボランティア団体やNPO法人は、会費や寄附金の他、行政や企業等からの補助金、助成金を活用した事業展開が主となります。それらの活動資金は、確実に得られる確証がないものばかりで事業を安定的に運営するうえでのボトルネックとなっている現状があります。

 あきた結いネットでは、外部から得られる資金に依存するのではなく、設立時から事業型NPOをめざして取り組んできました。「地域課題を解決する取り組みを事業化しよう」という志のもと、福祉領域における狭間、隙間に光を当て、ブルー・オーシャンを創造してきました。

 

福祉業界でどう戦うか

 ブルー・オーシャンとは、競合相手のいない未開拓領域を意味するビジネス用語です。

 同じ領域に同業者が多数いる場合、顧客を獲得するには価格競争や差別化が必要となります。しかし、「みんな気づいているけれど参入しにくい」領域は、大手やリスク回避を最優先する事業所は二の足を踏むため、競争相手がいないに等しいのです。

 あきた結いネットでは、「ホームレス」「触法者」「身寄りなし」「借金」などをキーワードとし、秋田県内の事業所が受け入れに難色を示すようなケースを私たちの出番!と考え対応しています。ただ、私たちの取り組みはあくまでも先行者としてのあり方であり、キーワードとしているような事情を抱えるクライエントを受け入れし続けることが目的ではありません。

 『地域にある社会資源が彼らを当然に受け入れられる』

 それこそが最も重要であり、その考えに賛同・理解して下さる方を増やしていくことが私たちの役割です。

 

グループホームお結びの取り組み

 私たちが運営する障がい者グループホームお結びを紹介します。お結びは、本体住居4名×2か所、サテライト住居1名×2か所の定員10名で運営しています。本体住居は2か所とも空き家対策を意識し、住宅街にある貸家を活用しているので外観からグループホームだとはまったく分かりません。分かるように大きな看板もつけていないのですが。

 お結びの特徴は以下となります。

 ① 入居時の身元保証人を求めない。

 ② 触法障がい者を優先的に受け入れる。

 ③ 世話人に社会福祉士・精神保健福祉士を配置している。

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

(グループホームの様子)

 グループホームを立ち上げたのは平成27年8月です。私たちは、平成26年4月からホームレスの受け入れを行っていますが、そのなかに頼れる身寄りがなく生きるために窃盗・無銭飲食をしてしまった、障がいを抱える方が多数いました。各種手続きを支援し、当法人が運営するシェルターから次のステップへと調整しても、地域の受け皿は無いに等しい状態だったのです。そもそもグループホームに空きがないことも大きな要因ですが、「罪を犯した」という事実は、彼らが福祉サービスを受けるうえでスティグマ以外の何物でもありませんでした。

『罪を償って社会に戻ってきても、彼らに居場所はないのか…』

 その事実に愕然としましたが、居場所が無いのなら私たちが創ろう!熱い想いは多くの人たちを巻き込んで「できない」「難しい」を「やればできる!」に変えていきました。

 

地域課題を解決するジレンマ

 地域課題がそこに存在し、その解決に取り組む志に多くの方が共感してくれています。しかし、それは自らのテリトリーや生活圏以外で行われる場合であって、どんなに必要な取り組みだと分かっていても、「自分のまわりではちょっと…」ではないでしょうか。

 グループホームお結びは、とてもありがたいことに物件の大家さんや仲介に入っていただいた不動産会社の会長、町内会長にいたるまで、私たちの活動に理解を示してくださり、何の問題もなく開所することができました。それはやはり熱い想いが、志のある方からまたその先へと伝わり、大きなうねりとなって形になったのだと思います。

 ただし、すべてがこのように上手くいく訳ではありません。地域を思い考えた事業であっても、受け入れられないことがあります。新たな枠組みを考えても地域で活用されないこともあります。同業者に、仲間に、批判的な言葉を言われるかもしれません。誰からも理解されないかもしれません。でも諦めてしまうことだけは避けていただきたい。

 そこに熱い想いと地域を良くしていきたい志があるのなら、私たちが諦めない限り道は続いていきます。地域課題に気づくことができる私たちだからこそできることが必ずあります。そこに社会福祉法人やNPOの存在意義があると感じています。

 

変えられること、変えられないこと、受け入れること

 地域課題を解決するジレンマに悩んだ時、私を励ましてくれた言葉があります。

ラインホルド・ニーバー

 「ニーバーの祈り」  翻訳者:大木英夫より

 神よ

 変えることのできるものについて、

 それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

 

 変えることのできないものについては、

 それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。

 

 そして、

 変えることのできるものと、

 変えることのできないものとを、

 識別する知恵を与えたまえ。

 

 急に現状を変えることはとても難しいですが、変えられることは必ずあります。大きな壁にぶつかったとき、そのすべてを投げ出してしまうのではなく、俯瞰的に現状を把握し、いまできることと向き合う。それが大切だと感じています。

 と、偉そうに言っている私ですが…。

 NPO法人を立ち上げる前の私は、相談支援が上手くいかない理由として「制度が悪い」「行政が悪い」「ついでに上司も悪い」と大きな声で言っていました。上手くいかない理由はすべて自分以外のところにあったのです。そのままの考えを続けていたら、今のようにNPO法人を運営したり、地域の協力を得てグループホームを作るなんてことはできなかったでしょう。

 ニーバーの祈りは、変わることを恐れていた私の心の弱さと、頑張っても急には変えられないものを教えてくれました。そろそろ第2回コラムの終盤に差しかかってきました。第1回コラムで皆さまへお伝えしたように、今回もお題を準備しています。

 第2回のお題はこちら。

 「あなたは今、幸せですか?」

 福祉領域でお仕事をしていると、関わる利用者さまをはじめご家族など『自分以外の誰か』を理解しようとする場面が多々あります。では、あなたは自分の感情をどのくらい理解していますか?何に喜び、何に悲しみ、誰と一緒にいたら心が安らぐのか。誰かを支えるばかりではなく、時には自分の心を解放して幸せを感じられる時間を持つことも大切です。

 「まずは職員自身が幸せでなくては」これは信頼する社会福祉法人のMさんがお話されていた言葉です。サービスを提供する私たちが幸せであること。とても大切なことでありながら、ついつい後回しにしてしまいますね。あなたの心からの笑顔が、きっと誰かを幸せな気持ちにさせていく。そうやって私たちはつながっていくのだと思います。

 

 最後に、読者の皆さまよりお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

【ご質問】

 アンケート調査・聴き取り調査が基礎にあるということですが、アンケートはどのくらいのボリュームで、どのような人に配り、回収率何%くらいから信憑性が高いと判断し、事業展開に反映しているのでしょうか?教えてください。

 

【回 答】

 ご質問ありがとうございます。平成26年度に秋田市地域保健・福祉活動推進事業の補助を受け行ったアンケート調査を紹介します。

1 アンケートの目的

 地域で誰もが安心して生活するためには、地域住民の協力が不可欠である。その実現のためには、支援の現場で起きている現状を広く収集し、市民に知ってもらう機会が重要となる。情報を収集する方法として高齢者、障がい者、生活困窮者などが抱える課題(法律や制度では解決できない事)を浮き彫りにするアンケート調査を実施する。

2 アンケート調査の方法 

 秋田市内の高齢者・障がい者等の相談業務を行っている事業所、弁護士、司法書士、民生委員、保護司、行政機関、医療機関等、1,010か所(団体・個人含む)にアンケート調査票を送付。返信用封筒を同封し、記入済みのアンケート調査票を回収。

◎アンケートは常に相談を受け付ける立場にある方が、日常の業務の中で「より困難と感じた事例」を2つあげていただく形で行った。

◎アンケートは職能団体、弁護士、NPO関係者、教育関係者等で検討し、アンケート作成委員会を立ち上げ4回の会議を経て完成させた。

  • アンケート送付時期 平成26年11月上旬~中旬
  • アンケート回収締め切り 平成26年12月20日
  • アンケート集計期間 平成27年1月~3月
  • アンケート送付数 1,010通
  • 有効アンケート数(事例数)   636事例

 

( ※ 以下、画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。)

 

 

 

 

 

 集計結果の一部を掲載させていただきました。問1の「困難と感じた要因は何か」という質問において当法人が着目したのは、支援体制や機関が不十分な領域です。平成26年頃の秋田市にはフードバンク等の生活困窮者を支援する団体はありませんでしたし、罪を犯した方を受入れるNPOも存在していませんでした。

 アンケート結果から「社会的孤立」「生活困窮」「身寄りなし」「法務・犯罪」「住居確保」に対する支援の薄さに気づき、それらに向き合う決意をしました。

 ご質問のなかに「回収率何%くらいから信憑性が高いと判断し」とありますが、数値で信憑性を判断する方法はとっておりません。当法人の考えとしては、困っている方が1人でもいたら、それは氷山の一角であり、声なき声のなかに埋もれてしまった方が本当は多数いると考え、対応しています。当法人が行う対応方法は大きく分けて2つです。1つ目は、現在ある相談機関等が本来の役割を発揮できるようにサポートする方法。2つ目は、必要性を多くの方が気づかずにいる制度の狭間については「無いものは創る」の考えで、新たな事業を立ち上げる方法です。

 他にもさまざまな方法で当事者の声を事業に反映できるよう努力しています。すべての事業の根っこには、その事業を自分達が行う必然性を証明する『根拠』が必要だと考えます。

 自己満足な事業展開ではなく、本当に地域から必要とされる事業を展開するには、地域の声をより多く反映すること。その努力が求められているのではないでしょうか。

 

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 お題への回答や、本コラムを読んで坂下さまに聞きたいことなど、事務局までどしどしお寄せください!

 

ご質問宛先

全国社会福祉法人経営青年会 事務局

E―mail:zenkoku-seinen@shakyo.or.jp

FAX:03-3581-7928

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