第6回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

2019.3.6

第6回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第6回 「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

「創り上げたものを壊す勇気~現状維持は停滞と同じ~

 

著者:坂下 美渉(さかした みさ)氏 プロフィール

特定非営利活動法人あきた結いネット理事長

 社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、相談支援専門員。秋田市地域福祉活動計画策定委員、秋田県児童会館運営委員。

 高齢福祉・司法福祉分野で働いた経験を活かし、平成25年10月にNPO法人設立。「秋田県で困っている人なくそう!!」をスローガンに身寄りのない方や生活困窮者、障がい者の支援に携わっている。長い物に巻かれることを嫌い、『声なき声』と向き合うことに全力を尽くす。今年(平成30年)で40歳。人生の折り返し地 点!

 

 

 平成30年10月からスタートしたこのコラムも第6回目となる今回で最終回となります。

 今回のコラムでは、第1回から第5回のコラムを振り返りながら、これからの社会福祉法人が担うべき役割と使命について皆さまと一緒に考えていきたいと思っています。

 さっそくコラムの振り返りをはじめましょう。

 

第1回コラムについて

テーマ:私のストーリー ~過去から今、そして未来へ~

 この回では、「坂下美渉」という人間を皆さまに理解していただくため、エピソードを交えながら生活歴や職業観、信念等をお話しさせていただきました。全6回のコラムを通して、皆さまにクスッと笑いを提供するはずでしたが、笑えない内容が多かったかもしれません。いかがだったでしょうか。まったく自信はありません…。

 そして皆さまへのお題は、「あなたがいまの仕事を始めたときの志を覚えていますか?」でした。

 

第2回コラムについて

テーマ:NPOのさすらい旅 ~存在意義とは何なのか~

 ニーバーの祈りを紹介しながら、NPO活動に取り組むなかで抱えるジレンマとの向き合い方をお話ししました。福祉領域におけるブルー・オーシャンとは、つまり「制度の狭間、隙間」ということになりますが、変えられるものがあるならば諦めることなく進み続ける強さが社会福祉法人やNPOに求められるという内容です。

 そして皆さまへのお題は「あなたは今、幸せですか?」でした。

 

第3回コラムについて

テーマ:ホームレス支援の現状から見えること

 厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査結果」をもとに『声なき声』と向き合う内容となっています。

 先立つものがないことを理由に支援活動を終わらせてはいけない

 先立つものがないことを理由に取り組むことを諦めてはいけない

 困りごとを抱えている人たちの一番近くにいる私たちだからこそ「声なき声」を無かったことにせず、さまざまな団体や地域住民と協力しながら現状を打開するネットワークを!という内容でしたね。

 そして皆さまへのお題は「あなたは自己覚知していますか?」でした。

 

第4回コラムについて

テーマ:法人の根っこ、しっかりありますか? ~私たちの源流は何か~

 あきた結いネットの理念やミッションを紹介しながらそれらの浸透のために取り組んでいる内容を説明しました。

 ピーター・ファーディナンド・ドラッカーが述べているミッションには第一にニーズ、第二に卓越性、第三にコミットメントが求められることを皆さまと共有しました。このコラムをきっかけに皆さまが所属されている法人の理念等についてその価値を再確認し、言葉の持つ力を最大限活用してくださっているとすれば嬉しく思います。

 そして皆さまへのお題は「あなたは主体的に行動していますか?」でした。

 

第5回コラムについて

テーマ:「親亡きあと」とどう向き合うか

 あきた結いネットが創り上げた身元保証事業。この事業が本当に困っている方たちの力となれるよう当事者の皆さまと一緒に取り組む新しいプロジェクトを紹介しました。

 相当な時間を費やした事業であっても現状に合わせて壊すことや創り直す必要性があることを皆さまと共有しました。

 そして皆さまへのお題は「あなたは自分を変える勇気がありますか?」でした。

 振り返るとやはりクスッと笑える内容にはなっていませんでしたね。

 どのコラムも辛口に構成されていましたので、きっと皆さまの心に残る何かはあったのではないでしょうか。

 

7つのバイアスの罠

 ここで人間が持つ「7つのバイアスの罠」についてお話しします。

 山崎裕二著「先にしくじる」のなかで詳しく紹介されていますが、人間にはつかまってしまうとどうしても抜けられない罠があります。

  1. 「現在バイアス」 ずるずると課題を先延ばしにしてしまう
  2. 「オプション選好性」 どっちがいいか決められない
  3. 「非合理的な信念」 勝手な思い込みで人間関係をこじらせる
  4. 「コンコルド効果」 もはや、引くに引けない
  5. 「自己中心性バイアス」 自分たちのやり方なら必ず成功すると思い込む
  6. 「完璧主義」 すべてがそろわないと動けない
  7. 「計画の錯誤」 必ず想定外のことが起こる

 

 バイアスとは英語で「偏り」という意味を持ちますが、多くの場合は「先入観、偏見」という意味で使われているようです。

 上記1~7における私の現状ですが、個人レベル・組織レベルどちらにおいても「いくつもの罠にはまっては脱出し…」の繰り返しをしている日々のように感じます。コラムのなかにも非合理的な信念や自己中心性バイアスが見え隠れしていますね。

 ただ一番好ましくないのは、抜けられない状況を理解しながら何の手立てもせず放置することではないでしょうか。もがきながらも手探りで前に進み、バイアスの罠につかまってもその事実に気づき現状を変えていく勇気を持つこと。

 地域社会と向き合う私たちに求められる姿勢はそこにあると感じています。

 

SDGsが目指すもの

 あきた結いネットでは、2019年1月から「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の補助を受け組織の基盤強化をめざした組織診断を行います。

SDGsの詳細についてはこちら

Panasonicサポートファンド for SDGsの詳細はこちら

 SDGsとは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴールが設定され、その第1目標に「貧困をなくそう」があります。

 Panasonicでは、これまでもさまざまな団体の活動が継続できるようサポートをされてきましたが、2019年からはSDGsを取り入れ、当法人のようなホームレス支援や貧困対策に取り組む団体の基盤強化へ力をお貸しくださっています。

 SDGsのめざす「誰一人取り残さない」世界の実現には、既に多くの企業等が賛同しさまざまな活動がスタートしています。

 ビジネスで培ったノウハウやネットワーク、そこに経営力、経済力がプラスされた活動は大きな成果を生むのではないでしょうか。

 2030年、17のゴールの多くが達成された場合、NPOの存在意義はなくなってしまう可能性もあります。少し大げさな解釈かもしれませんが、これまで社会福祉法人やNPO、地域ボランティアが支えてきた地域福祉のあり方が大きく変わってしまうかもしれません。

 私たちが活動する領域がこれからもずっと安定的に守られていく保障はどこにもないのです。

 世界は刻々と変わっています。

 日本も福祉も人間の価値観も刻々と変わっていきます。

 7つのバイアスのコンコルド効果や完璧主義の罠にはまって十数年も現状維持を保つことは良い状態とはいえないかもしれません。

 ビジネスの世界では、「現状維持は停滞と一緒」。状況によっては「現状維持は衰退と一緒」という理解もされます。

 

まとめとして

社会福祉法人には歴史と実績があります。

 長い間、困りごとを抱えた多くの人たちに手を差しのべ、地域を支えています。

 あきた結いネットにおいても、秋田県内の社会福祉法人の皆さまに法人設立時からさまざまな形で支援いただき、いまがあります。私たちのような小さな団体にとって社会福祉法人の皆さまからの後ろ盾はとても心強くありがたいものです。

 私がNPOの立場で社会福祉法人の皆さまにお伝えできることがあるとすれば、それは「無いものを一緒に創っていきましょう!」ということです。

 企業がSDGsに取り組むことで貧困をはじめとする多くの困りごとが解決の方向へ進むかもしれません。クライエントの利益を考えたらとても有難いことです。しかし、人間が抱える困りごとは経済の回復だけで解決できるものではないと私は考えています。だからこそ社会福祉法人の皆さまがこれまで地域に根づいて活動されてきた実績と、地域からの信頼、信用が大きな財産となって「声なき声」をすくい上げる原動力になれると私は信じています。

 これからは社会福祉法人の連携や合併、事業譲渡を視野に入れた事業経営の必要性もあるようです。その際、連携先の一つとしてNPOや企業も構想に入れてみてはいかがでしょうか。今までの取組を大切にしながら、新しい風を取り入れることはとても勇気のいることですが、停滞を防ぐためには重要なことです。

 変わろうと思ったとき、1歩踏み出せるかどうかが人生を大きく左右します。

 このコラムを読んでくださっている皆さまの心のなかに小さな勇気が芽生え、誰かを幸せにする行動へつながっていくことを心から願っています。

 私自身も今回のコラム連載を通して多くの学びがありました。この学びを無駄にしないよう頑張りたいと思います。

 本コラムを最後までご愛読いただきました皆さま、今回、このような機会をくださった関係者の皆さま、本当にありがとうございます。

 住みよい地域を創り上げるためこれからも共に歩んでいきましょう!

 

 最後に、読者の皆さまよりお寄せいただいたご質問にお答えしようと思います。

【ご質問①】

 いつも実践に基づくお話ばかりで非常に興味深く拝見しております。

 今回のコラムのなかで、身元保証事業からみえる「親亡きあと」の問題は、私たち福祉の現場にいる者にとっても他人事ではないと感じました。

 そこで質問です。これまでこうしたさまざまなケース・事例に携わってきた経験から、いまどういった制度や事業、サービスがあったらいいなと感じているか、具体的なものがあれば教えていただけないでしょうか。

 

【回 答①】

 ご質問ありがとうございます。

 親亡きあとについて他人事ではないと感じてくださる方が増えることは私たちの願いですし、とても嬉しく思います。

 当法人では2月22日に「親亡きあと問題を考えよう」というテーマでセミナーを開催しました。このセミナーでは当事者の皆さまを中心に、親亡きあとについてアンケートを行った結果の公表も兼ねていましたので、そのアンケート結果の一部を紹介します。

(設 問)

 「親亡きあと」についてどんなイメージを持ちますか?

(回答結果)

 現在困っている 11%

 近い将来困りそう 47%

 いつか困るかもしれない 34%

 困らないと思う 7%

 無回答 1%

 

(設 問)

 地域住民の方は協力的だと感じますか?

(回答結果)

 とても協力的 5%

 普通 49%

 あまり協力的ではない 25%

 全然協力的ではない 13%

 無回答 8%

 

 この結果から、障がいのあるお子さまを抱える親御さんの約9割が親亡きあとに不安を感じているということが分かりました。そして、約4割の方が地域住民の協力を得られていないと感じています。

 現在、各種福祉サービスや成年後見制度、行政の窓口など相談しようと思えばできる場所が整備されています。そのよな状況においても、不安は消えることがないという現実。

 つまり、現在整備されている制度、事業の多くが、当事者の皆さまにとって使いやすいものではない、もしくは気軽に相談できる状況には無いということが分かります。残念ながら、現段階でご質問にお答えできるような具体的な提案はできないのですが、それに代わるものとして皆さまがお住いの地域でアンケート調査を実施してみてはいかがでしょうか。

 今回、私たちはアンケート調査の実施やセミナーの開催を通して、当事者の皆さまが本当に必要としているものを理解していなかったこと、身元保証事業を専門職だけで創りあげることは本当の意味で地域課題の解決につながっていないと気づきました。

 加えて、私たちの活動が何かの結果につながることを心から待ち望んでいる当事者の皆さまがいることを知る機会にもなりました。今後、私たちは、当事者の皆さまとじっくり話し合いながら本当に必要なサービスを創りあげていきたいと考えています。

 親亡きあとは他人事ではありません。だからこそ、その必要性を知った皆さまが先頭に立ち、それぞれの地域に合った仕組みを創りあげていくことを期待しています。

 

【ご質問②】

 第5回コラムでご指摘いただいた「創りあげたものを壊す勇気」に関連して、個人ではなく「組織」として自法人が実施する取組の必要性や発揮する効果等について見つめなおすために、なにか気をつけていること(意識づけ、教育制度等)があれば教えていただきたいです。

 

【回 答②】

 ご質問ありがとうございます。

 私たちが実施する取組の必要性や発揮する効果等について職員が自ら振り返りを行う機会について紹介します。

 あきた結いネットでは、作業の標準化や費用対効果、PDCAサイクルやプレゼン方法、チームビルディング研修など、ビジネスの視点を用いた研修を積極的に実施しています。

 そして、最近は問題設定の技術である「論点思考」を取り入れています。論点がずれていた場合、その対策をいくら講じても問題の解決につながりません。

 例えば、福祉現場で行われる担当者会議やケースカンファレンスでは、生じている事象に対しての方法論(ツール)ばかりが話し合われがちですが、

『そもそもなぜ、この問題が起きているのか』

『これは本当に問題なのか』

『私たちの提案する方法が問題の解決につながるのか』

といった根っこを見ずして、表面化している事象に場当たり的に対応していても、何の解決にもつながりません。

 私は毎日のように職員に対して話し合いの根っこは何か、それは誰を幸せにするために行うのか、この方法を選ぶことで幸せになるのは誰?と質問します。職員は自分の考えに誤りや甘えがあった場合は、いつでも柔軟に方向転換、軌道修正できる環境にあり、同僚のあり方を見て自らも変わっていくことができます。

 これらの積み重ねが結果的に『創りあげたものを壊す勇気』につながり、論点のずれに気づいたときに躊躇なく行動できる要因になっていると感じています。

 そしてとても重要なことは、経営者、管理者等が自ら実践することが大切だと考えています。

 現状維持や変化を望まない姿勢でいたのなら、当然ですがイノベーションは生まれません。法人の存続と地域課題の解決を天秤にかける訳ではありませんが、そこに生まれるジレンマとどう向き合うかが法人の価値として評価される時代になってきているのではないでしょうか。

 意識づけや研修制度は法人内の一部分で行っても大きな効果は得られません。法人全体が同じ方向を見て実施することが望まれます。

 それは法人の経営陣、管理職、現場職員によって研修内容に違いがあるにしても、めざすゴールは一緒であることを意味しています。

 

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 第1回~第5回コラムは、以下よりご覧いただけます。

第1回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第2回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第3回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第4回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

第5回「無いものは創る~特別なことから自然なことへ シフトチェンジ~」

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